トライアスロンウエットスーツの選び方 ウエット着用で泳げるようになる?
日本国内のトライアスロンでは、ほぼ全ての大会にてウェットスーツの着用が義務付けられています。大会によっては、ウェットスーツの着用が義務でなく「推奨」である場合もありますが、大多数の選手が着用しています。また、「泳げない」といったハードルを下げることができる「魔法のアイテム」としても有名?ですね。トライアスリートが、トライアスロンに誘う時の決まり文句は、「ウエットスーツがあれば泳げなくても大丈夫」、果たして本当に大丈夫なのでしょうか?
ウェットスーツを着用する理由
喜ばしいことにトライアスロン人口は急増中。毎年、新しくトライアスロンを始める人が増えています。それは同時に、初心者が増え続けていることを意味します。もちろん、競技人口が増えていくことは喜ばしいことですが、大会運営側にとっては事故を未然に防ぐための配慮が必要です。安全確保のための手段として、ウェットスーツの着用が義務付けられているようです。(*後述しますが、必ずしもウエットスーツ着用が安全に繋がっているとは言えません。このウエット安全神話から脱却したルール整備が求められていくと思います)
ウエットスーツを着用することで、浮力を得られますが、泳げない人が泳げるようになる魔法のようなことはありません。大会に臨む選手は、ウェットスーツがなくても泳ぎ切る実力があることが好ましいですね。
ウェットスーツの効果
ウェットスーツには、大きく分けてふたつの効果があります。ひとつは「浮力」、もうひとつは「保温」です。このふたつの効果によって、安全性が向上します。
ウェットスーツは、選手の水泳技術が未熟であっても、「浮力」で技術不足をカバーしてくれます。水泳初心者の課題である「腰を浮かせること」は、ウェットスーツを着用することで、カバーできるのです。プールでは腰が沈んだフォームでしか泳げない初心者も、ウエットスーツを着用すれば、腰が浮いたフォームを保つことができます。
プールで、十分に大会の距離程度を続けて泳ぎ切ることができる選手であっても、屋外で同様のパフォーマンズが発揮できるとは限りません。トライアスロンは、屋外でのスイム=ウォープンウォータースイムです。海や、湖、川など様々な環境下で行なわれます。地面に足がつかない状態、プールに比べて格段に悪い視界、波や潮の流れ。水温も場所や時間によって全く異なります。さらには、選手同士の接触も。こうした外的要因での不安がパフォーマンス低下に影響します。ウェットスーツを着ていれば、溺れないという安心感は大きなメリットでしょう。
ウェットスーツのもう一つの効果である「保温」。浮力は、泳力と経験でカバーできますが、寒さばかりはトップ選手もカバーできません。寒さは、パフォーマンスの低下に直結します。オリンピックディスタンスのエリートカテゴリーでは、基本的にはウエットスーツ禁止で行なわれますが、20度以下の場合には着用可、16度以下の場合には着用義務になります。
ウェットスーツの種類
ウエットスーツには現状2パターンのタイプがあります。「ワンピースタイプ」か「セパレートタイプ」です。ワンピースタイプはその名の通り、上半身と下半身が繋がっているタイプのウェットスーツです。背中にあるチャックをおろすことで、スムーズに脱ぐことができます。チャックは、腰の少し上の辺りから首元まで続いています。チャックには、長い紐がついており、簡単に手が届くため、背中にあっても簡単におろすことができます。泳いでいる間、長い紐はマジックテープで留めておいたりと、泳いでいる最中に引っ張られて脱げてしまうことはありません。海外から輸入されるウエットスーツのほとんどが、このワンピースタイプです。サイズの選び方が難しいのがデメリットですが、ブランドも多く価格帯も安いもの(2万円程度)から高価なもの(10万円以上!)までラインナップが豊富です。
セパレートタイプは、上半身と下半身で分かれています。セパレートタイプは、日本独自の商品のようです。ほとんどのブランドが、トライアスロンショップのオリジナルで、自分自身のサイズをはかってのオーダーメイド商品です。上半身は、被りのものや、着脱がしやすいように胸にジッパーがついているモデルも選ぶことができます。また、長袖のものも、袖のないタイプも、上半身だけ変えることで、水温などでチョイスすることができます。長いトランジッションの際には、先に上半身だけを脱いで、手に持って走れるため、日本国内のエリート選手の多くが愛用しています。(フルスーツの場合には、脱いだ上半身が邪魔で早く走れない)デメリットとしては、オーダーメイドのため、高価であること(5万円〜)、納期がかかることです。
また、どちらのタイプでも、長袖のもの「フルスーツ」と、半袖のもの「ロングジョン」があります。寒いときには、保温性からフルスーツ一択ですが、25度以上あるような真夏の大会では、ロングジョンがお勧めです。プールでウエットスーツを着用したことのある方ならよくわかると思いますが、保温性が仇となって、「暑い」のです。特にプールと同じように水温が28度〜30度もある場合には、フルスーツは熱中症、脱水症状の危険も。また、フルスーツは肩を回すのにゴムが硬い、重たいなど、初心者や力のない女性には苦手な方も多いようです。よっぽど寒い大会でない限り、初心者の方はロングジョンがお勧めです。(上級者であれば、フルスーツの方が水の抵抗も少なく、浮力があるため、タイムは速くなります。どちらを選択するかは、ショップやコーチの方とよく相談してください)
ウェットスーツのお手入れ
ウェットスーツを使用したら、毎回の手入れを欠かさないようにしましょう。使用後は、水・ぬるま湯で塩気や汚れを取り除きます。シャワーなどで洗い流してもかまいませんが、丁寧にもみ洗いをしましょう。当然ですが、洗濯機や乾燥機は使用してはいけません。
汚れを落としたら、水気をある程度抜いてから、陰干しをします。ウエットスーツはゴムでできています。直射日光は厳禁!風通しのいい日陰に干しましょう。ハンガーなどを使う場合は、ゴムが伸びないように配慮が必要です。手入れが終わって、収納する際には折りたたんではいけません。ウェットスーツを折りたたむとシワがついしまいます。このシワはウェットスーツを痛め、そこから破損が始まることがあります。収納する際には、丸めるなどしてシワがつかないように気をつけましょう。
まとめ
以上のように、ウエットスーツは、寒さから身を守り、体を浮かせてくれる魔法のアイテムですが、デメリットもあります。サイズのあわないウエットスーツには要注意。フィットしていたウエットスーツも、体の変化(太った?筋肉がついた?)や、ゴムの劣化(硬く小さくなります)で締め付けが強くなることがあります。特に、胸部の締め付けがある場合は注意しましょう。呼吸を行う肺が必要以上に圧迫されると、危険な状態に陥りやすくなります。陸上で着用してみて問題ない場合でも、水中では水圧も加わるため注意が必要です。定期的に、ウエットスーツを新調すべきです。できれば、2年毎に交換をお勧めします。トライアスロンで起こる死亡事故の大多数がスイム中です。直接的な死因は様々ですが、ウエットスーツを着用しないオープンウォーター競技と、トライアスロンのスイム中の死亡事故の件数に優位差がないことからも、ウエットスーツが安全に寄与しているかは疑問です。ウエットスーツの魔法を過信せずに、泳力を身につけ、サイズのあったスーツを着用し、コンディションを整えて大会に臨んでくださいね!
byKD