部活でトライアスロンが強くなる方法
私はかつて母校のトライアスロン部を指導していたことがあります。トライアスロンは個人種目ですが、同じ個人種目である陸上競技や競泳と違って、集団での練習が非常に難しいと感じたものです。多くの学生トライアスリートが指導者不在で頭を抱えていることでしょうから、ここに部活で強くなるためのアドバイスを書いていきます。
同じ目標を持つ
簡単そうで一番難しいのが、「同じ目標を持つ」ということです。大学生にとっては「学生選手権」(通称インカレ)があり、それはオリンピック競技である51.5kmのトライアスロンです。他の投稿でも書いていますが、トライアスロンにはミドルやロングといった長い距離のものもあり、その競技特性は、極めて異なります。全員が、インカレを目指していれば、部活の運営も難しくはありませんが、中には長い距離のトライアスロン、例えばアイアンマンで世界選手権を目指したいという選手もいるかもしれません。入部する前に、部活の方向性を一致させておくことが大切です。
また、インカレを目指す中でも、なるべく温度差が出ないような目標の掲げた方がいいでしょう。ただ、「それぞれがインカレに向けて頑張っていく」という漠然とした目標ではなく、「インカレに団体戦で入賞する」「インカレ団体優勝」など、チームでの具体的な目標を掲げることが大切です。
アイアンマンを目指したい部員がいる
インカレを全員で目指す部活として運営している場合でも、練習をし続けているうちに、自分の競技特性はインカレ向きではなく、アイアンマンなのではないか?そう思う部員も出てくるかもしれません。特に長い距離のスタミナやバイクランに自信のある選手の場合にはその傾向が強いと思います。そうした部員に対して、インカレに向かってチーム一丸となって運営をしていくのはとても難しいといえます。部長やコーチなど責任者は、しっかりとそうした部員と話合う時間を設けましょう。
私の意見ですが、インカレは大学生だけしか出られない大会ですが、ミドル・ロングのトライアスロンは、卒業してからも趣味で出場できる大会です。また、趣味でなくプロを目指したいというレベルの部員であっても、大学生のうちにオリンピックディスタンスであるインカレに向けた練習をすることは大きなメリットがあります。競技特性の異なる両者ですが、オリンピックディスタンスにはトライアスロンの基本がつまっています。しっかりとオリンピックディスタンスでトライアスロンの基本を習得してから、ミドル・ロングにシフトした方が結果的に選手として成長できます。
シーズンの前半は、9月のインカレを目指してトレーニングをし、以降はアイアンマンに向けたトレーニングをするなども折衷案としていいでしょう。3月に行なわれるアイアンマンニュージーランドや4月の宮古島大会など、冬場のトレーニングをロングに寄せ、以降はインカレを目指すトレーニングにするのも有効です。忘れてはいけないのが、ロングの大会の後のダメージです。2〜3週間は練習も落としてリカバリーにつとめないと芯の疲労がとれません。こうしたリカバリーの観点からも、インカレを目指す部活でロングにもチャレンジする部員が、大会後、すぐに本練習に合流できないだろうことを見越してスケジュールを組むべきでしょう。
練習スケジュールの組み方
さて、実際の練習ですが、競泳や陸上と違って、種目によって練習環境を変えなくてはいけません。プールが使える時間帯、トラックが使える時間帯など、予め、自分たちの都合では選べない種目から練習スケジュールをあてていきます。これをアンカーとなる練習として、「ポイント練習」として、必ず部員が参加できるようにします。実際に、1週間のスケジュール例を組んでみました。1週間の中でもメリハリをつけます。月曜の金曜がオフにして、他の曜日をハードに練習します。もちろん、これを木曜・日曜をオフ、でもいいと思います。赤字にしてあるのが、アンカーとなる練習です。必ず部員全員が参加できるようにします。入部規則で、この練習には必ず出席するというのを入れておくといいですね。このアンカーとなるポイント練習以外の練習は、それぞれのコンディションによって変えていいでしょう。特に、競泳出身の子でラン強化が必要ならジョグの時間を増やしてもいいと思いますし、陸上出身でスイムが苦手であれば、自主的にスイム練習する時間を増やすべきでしょう。
月曜 オフ
火曜 スイム2時間 ラン1時間
水曜 スイム1時間 バイク2時間(インドア)
木曜 ラン2時間(トラック)
金曜 オフ
土曜 スイム2時間 ラン1時間
日曜 バイク3時間 ラン1時間(学外)
合計 15時間 スイム3回 5時間 バイク2回 5時間 ラン4回 5時間
トレーニング時間の目安
インカレに出場するためには、週10時間程度、インカレで上位を狙う選手であれば、週15時間前後の練習が必要だと思います。部活としてアンカーとなるポイント練習だけで、上記であれば12時間。インカレで上位を狙うやる気のある選手であれば、それにプラスして練習をすれば、十分インカレで戦えると思います。
トレーニングの基礎知識を共有する
部活でコーチがいない場合でも、いる場合でも、トライアスロン競技においてはトレーニングの基礎知識をそれぞれが知っておく必要があります。例えば、上記の練習スケジュールが示されていても、ポイント練習以外の練習は、自分で判断して練習すべきだからです。トライアスロンは、3種目をバランスよく練習していく、マネジメント能力が求められます。適当な練習ができるように、トレーニングの基礎知識を全員が共有していくことが大事です。具体的なトレーニングの基礎知識については、
・トレーニングの3原理5原則
・回復について
・食事の取り方について
以上を共有しておくといいでしょう。詳しくは別途ポストしたいと思います。こうした知識をもった上で、ポイント練習の上に、自分にあった練習を上乗せしたり、間引いたりしていきます。選手主導でそれぞれが練習スケジュール、メニューをコントロールしてトレーニングできるようになるのが部活としてのゴールといえます。
マネージャーを育てる
先ほど、トライアスロンはマネジメント能力が求められると書きました。選手それぞれが、自分自身のトレーニングを俯瞰して見つめて、コントロールできるようになるのが、強い部活です。ですが、キャリアの浅い学生たちに、それを全て求めるのは難しいでしょう。俯瞰してアドバイスができるコーチが必要です。残念ながら、日本学生トライアスロン界でコーチのいる部活は多くありません。そこで、学生マネージャーの出番です。マネージャーは、ただ、タイムをとって、応援するチームのアイドルだけでは勿体ない存在です。選手の練習状況を俯瞰して、アドバイスできるように、選手とともにトレーニング知識を共有し、成長していきましょう。ちなみに、私が部活を見ていた時にマネージャーさんに掲げていたスローガンは、「戦うマネージャー」です。データ収集はできて当たり前、データをみてアドバイスできるようにマネージャーも成長していきましょう。もちろん、日々の練習では、選手のフォームのビデオ撮影からタイム取りや、給水サポートまでやるべきことはたくさんあります。本気のマネージャーがいる部活は強くなるものです。
最後に
学生は本分である勉強もあるし、競技にかかるお金を捻出するため、アルバイトをすることだって大切です。それらも引っ括めて、部活と両立することでマネジメント能力が本当に鍛えられます。人間とは、ストレスに適応する能力があります。入学当初は手一杯だった部活も勉強も、慣れてくれば、アルバイトをする余裕が生まれたりします。
「私は一つのことしかできないから、、、」そういって部活を辞めてしまったり、逆に勉強を疎かにする学生を多く見てきました。もちろん、一つのことに集中することは大事ですが、自分自身でキャパシティの幅を狭めないようにしてほしいと思います。本当に勿体ない。学生の皆さんは、若く、そして可能性に溢れています。キャパシティは広げることができます。勉強も練習も同じです。すぐに諦めずに、粘り、ほかの方法を探すという選択肢を残しておいてください。トライアスロンは、とても忙しくハードな競技ですが、人としての能力を高めてくれる素晴らしい競技です。学生時代にトライアスロンに出会えた幸運をモノにして、素晴らしい青春を送ってほしいと思います。本当に強くなりたい、もっと詳しく知りたいという方は別途、編集部までお問い合わせください。何か役に立てる事があるかもしれません。
by KD