オープンウォーターが苦手な上級者へのアドバイス
完走目標だったり、自己ベストを目指す方に向けて、「オープンウォータースイムはマイペースで乗り切れ!」と書いてきました。ここでは、さらに上級者向けにアドバイスを書いていきます。特に、エリートレースに出場している選手たちへのアドバイスです。
この記事に興味を持って読んでくれる読者は、きっとプールでのタイムの割にレーススイムがうまくいかなくて悩んでいる選手でしょう。プールでの練習では負けない相手に、レースでは先行されてしまう。頑張って泳いだのに、なぜ、この位置でスイムアップなのか、自己嫌悪した経験があるのではないでしょうか。
オープンウォーターが苦手な選手の傾向
オープンウォーターに強い泳ぎとは、波や隣の選手からのコンタクトの影響を受けづらい、ストロークテンポの速い泳ぎと言われています。キャッチアップクロールのような伸びのある泳ぎ方の場合には、伸びている間に外からの影響を受けて推進力を失いやすくなります。従って、常に推進力を足していくようなテンポの速い泳ぎ方がベターです。さらには常にどちらかの手のひらが水を捉ええて押しているような泳ぎ、カヤックボートのオールのような漕ぎ方(カヤックストロークと呼ばれます)を目指しましょう。キャッチアップクロールというのは、ストロークして推進力が減少して、またストロークして推進力を得て、の繰り返しです。「伸び」ている間、推進力が水の抵抗を受けて減少しています。
また、オープンウォーターでしかない、他選手との接触も、差が出るポイントです。苦手な選手は、第1ブイまでの「バトル」でポジションを落としてしまうことが多いのではないでしょうか。第1ブイまでは団子状態だった集団も、ブイを最短で回るために一気に集約され、ブイを抜けてからは一列棒状になることが多いですよね。ブイの直前でポジションを落として、ブイを回る「順番待ち」の状態になってしまうと、一列棒状になった直線で順位を回復させるのはとても難しくなります。スペースのないところで体と体がぶつかり合いながら泳ぎ、いいポジションを勝ち取るためには、体幹の強さが必要です。ときには、下半身を沈められるかもしれない、ストロークが後頭部に当たって、頭を沈められるかもしれない、ロープに押しやられて片手がストロークできない、そんな状況下でも、推進力を失ってはいけません。浮心をコントロールし、バランスをとる体幹の強さ、テクニックが要るのです。
真っ直ぐ泳ぐこと
また、スタートしてすぐに、大きな集団に引っ張られるように内側に寄ってしまう選手がいます。自らバトルに突入していくようなものです。スタートしたら真っ直ぐに泳いでみましょう。第1ブイまで300mほどあるようなレイアウトで、なおかつ、特にスピードに自信がある選手なら、スペースのあるところでバトルなく泳いで、ブイが近づいてきたら、徐々にブイ側(内側)に寄っていくのがいいでしょう。ヘッドアップも面倒くさがらずに、2〜4ストロークに1回は入れましょう。何度もいいますが、自分の目指すべき進路に対して真っ直ぐに泳ぐ、これが最大のポイントです。また、ヘッドアップをすることで、周りの選手の様子も観察することができます。どちらが混雑しているのか、隣の選手の向こうにはスペースがあるのか、ないのか、どちらに逃げるのか、泳ぎながら、自分がどの位置を泳いでいるのか、空から俯瞰して見ているようなイメージを浮かべて泳ぎましょう。
プールでのオープンウォーター対策
メインスイムのインターバルでは、奇数本をヘッドアップあり、偶数本をヘッドアップなし、などとしてタイム差がなるべく出ないように練習していきましょう。練習でできないことは本番でもできません。プールにおいても、ただ前を見るだけでなく、隣のコースの様子などを観察できるようにしていきます。
バトルに対しての練習にはチームメイトに協力してもらいましょう。1コースに3人入ってメインスイムを行ないます。3人横並びでスタートし、3人横並びでクイックターンします。(上級者だから、クイックターンも大丈夫だよね?)狭い状況で泳ぐので、ストロークが交差したり、ぶつかったりで泳ぎづらい状況になります。しっかりと体を体幹で支えながら泳ぎます。二人で横並びでわざと、一名をコースロープ際に追いやるような状況を作って泳ぐのも効果的です。いずれにせよ、近い泳力のチームメイトに協力してもらいましょう。もし、自分と同じ以上の泳力の選手がいない場合には、複数人にリレーして付き合ってもらいましょう。後ろについてもらって、下半身の上に乗ってもらいながら泳ぐのも実戦に近い効果的な練習です。
また、コースロープを外すことができるなら、ブイを浮かべてミニレースをするのも有効です。このとき、プールだからといって、ブイ周りで立たないこと。そして、プール使用で許可されているのであれば、チームメイトにビート板などで波を起こしてもらいましょう。ビート板より大きいフロートなどを使ってリズムを合わせれば、随分と大きな波を発生させることができますよ。
省エネの知恵
上級者なら、10秒間隔で練習するときと5秒間隔で練習するときの違いがわかるでしょう。ドラフティング効果は大きなものです。プールで5秒間隔で泳いでいる状況でヘッドアップしてみましょう。思ったより前を泳ぐ選手と距離がありませんか?レースだったら、千切れた…と思うような距離ではないでしょうか?海でも、10秒前、5秒前にいる選手からの恩恵はあります。しっかり粘る努力をしましょう。また、後ろにベタ付きしたときに、「楽すぎるな」と思った経験ありませんか?そこで、前に出ようとして、バトルをやり合うのは賢くありません。これはトライアスロンのスイムです。その後にバイクランと続きます。「楽すぎる」と思って、前に出て一生懸命に前を引いても、結果的に前に出ないで後ろにいた選手と同じ位置でスイムアップしたら、勿体ない限りです。正直者がバカを見る、です。この人の後ろなら、十分!と判断したら、賢く省エネを心がけて泳ぐのが大切ですよ!
また、これはと判断した相手にドラフティングしている最中は、その選手を刺激しないことも作戦の一つ。気持ちよく、泳ぎやすい状況で前を引いてもらう訳です。間違っても、足をちょんちょんしたり、乗っかってはいけません。ペースが落ちてきたな、と思ったときだけ、ちょんと足を触って、後ろがつかえている、後ろにいるぞ!とプレッシャーをかけましょう。大抵ペースを上げてくれます。
スピードの緩急
ここまで読んで、オープンウォータースイムって、自転車レースに似ているな?って思いませんでしたか?その通り、集団をよくみて、いかに自分のポジションをキープしていくかが鍵になります。ロードレースと同じように安定走行しているパックになら誰でも、居ることができます。問題は、目の前での中切れや、アタックがかかったときに反応できるか、です。
ベタ付きで楽に泳いでいる泳ぎ方と、アタックがかかったとき、中切れを埋めにいくときの泳ぎを切り替えられるようにしましょう。本当に数秒の爆発力が必要です。メインスイム中に、チームメイトやコーチにプールサイドから笛を吹いてもらい、笛の音で泳ぎを切り替えてダッシュするなど練習しておきます。
「隣の奴を殺す気で泳げ」
プールは速いけどレースになると遅い、という選手は、比較的優しい性格の選手が多いようです。私がレースで伸び悩んでいたときに、先輩に教わったアドバイスが「隣の奴を殺す気で泳げ」でした。物騒なアドバイスですが、そのくらいの覚悟で飛び込むのか、とハッとさせられたものです。確かに、バトルは、水中での格闘技、周りの選手を殺すくらいの気持ちで飛び込まねばいけません。
もう一つ、先輩がくれたアドバイスは、(コンチネンタルカップやワールドカップなど隣でスタートする外国人選手が)デカくて、殺す気でいても、とても勝てなそうなら、「握手しろ」ということです。グリッドに並んだら、両隣の選手に手を差し出して握手です。面白いもので、握手を求められた側は、バトルで少し遠慮が生まれるのです。握手したら、こちらは「殺す気でモード」に切り替えて飛び込みます。多少、バトルが和らいだ気がします笑。ぜひ、実戦でやってみてください。
まとめ
いろいろ書きましたが、本番のレースに強くなりたいのであれば、最終的には、たくさんレースに出て経験値を増やすことです。私も、徐々にレース経験を増やして「当たる」レースが増えていきました。レースは、同じレースばかりではなく、様々なフォーマットや場所に臆せずに出ていくのがいいと思います。川を下るようなレースでは、真ん中の流れが速いのを実感したし、逆に用水路を逆泳するときには、壁際に張り付いて泳いでいたら、壁側の貝で負傷したり、ボディサーフィンの要領で、波を使って一気に集団に復帰できたレースもありました。自分で体験しないとわからないのがレース。いろんな環境で経験を積んで、いいレースをしてくださいね!
by KD