レベルアップしたい選手の睡眠時間とは
トライアスロンで強くなりたい賢明なXathlon読者の皆さんなら、トレーニング→食事(栄養補給)→睡眠(回復)のサイクルが極めて重要なことは知ってるかと思います。ほとんどの方が、第一番目の「トレーニング」ばかりに固執してしまいます。もちろん、トライアスロンの魅力は、スイミング仲間と過ごす練習時間だったり、気の合う仲間とのライドやランニングです。その後の、食事(栄養補給)まではトレーニングとセットで、コントロールしている方も多いですね。でも、それだけでは「強くならない」のです。3番目の「睡眠」もコントロールしていますか?
人の価値観はそれぞれですが、私が考えるトライアスロンの一番の魅力は、「強くなっていく」ことです。自分自身でトレーニングのある生活をコントロールして、体が変化していく、そして大会で成果を出す。そこに達成感や喜びがあります。数ヶ月単位、年単位で心身を準備して目標を達成できた時の心境は何とも表現し得ません。
前置きが長くなりましたが、もし、このような考えに共感できる方で、現状のパフォーマンスからさらに強くなりたいと考えているような選手は、ぜひ、最後まで読んでください。
本当に忙しい?
トレーニング、食事と同じレベルで必要なのが「睡眠」です。トライアスロンは、経済力のある方と親和性があります。それは、好奇心が旺盛で、挑戦するマインドや、生活をコントロールする力がある方が、トライアスロンに出会っていくことが多いからです。そういった方々は、すべからく仕事ができます。それ故、忙しい。トレーニング時間を睡眠時間を減らして捻出していませんか?
指導している若いアスリートに次のようなアドバイスをしたことがあります。彼は、日本選手権を完走するレベルにはいましたが、故障で伸び悩んでいました。原因は、次のレベルに行くための高強度の練習を積む土台が作れていないことでした。高強度の練習をやった後は疲れて、自然と回復するまで練習をしていませんでした。本来ならリカバリーも促進できる低強度のベーストレーニングを行うべきでしたが、きっと心身とも疲れてトレーニングができていなかったのでしょう。結果、高強度練習の割合が増えてしまったのです。
「高強度のトレーニングをやるのはいいのだけれども、故障が多くなっているね。そのために気持ちが浮き沈みすることも多いようだ。強い練習をしたい(しなくてはいけない)なら、その分、トリートメントするリカバリーの練習時間もとった方がいいよ。例えば、朝に2時間半、ハードに泳いだら、それで満足してその日を終えちゃダメだ。仕事が終わってから30分でも10分でもいいからゆっくりジョギングしなさい。最悪、夜ご飯が終わって寝る前でもいいから動きなさい。」
彼から返ってきた言葉は、非常に興味深いものでした。
「帰宅後もですか?睡眠時間を減らしていいなら。」
彼はイラつきを隠さずにそう私に返答したのです。もうギリギリでやってます、睡眠時間を減らすしかない、そう伝えたかったのでしょう。きっと、大部分のアスリートも同じ考えを持っていないでしょうか。
私は答えました。
「違うよ。睡眠時間は減らさない。でも、30分、10分は捻出できるでしょう?本当に忙しい?それが次の段階に行くってことだよ」
強くなるために必要なことは、何かを切り捨てることです。忙しいといっても、本当に忙しいか、改めて自分自身の時間の使い方を見返して見てください。それは、仲間との飲み会かもしれないし、テレビを観る時間かもしれない。スマートフォンをいじって他人のSNSを見ている時間も、ネットサーフィンも、強くなるためには、必要のない時間です。
繰り返しますが、アスリートにとって睡眠時間は、非常に大事なものです。成長ホルモンは睡眠中にしか分泌されないし、交感神経を休ませることは、翌日のトレーニングの集中に繋がります。
私の犯した失敗
私にも、大きな目標に向けて毎日、トレーニングを積み重ねている時期がありました。20代で若かったこともあって、睡眠時間が4時間、5時間は平気でした。逆に若かったので、収入を得るために朝から晩まで必死に働かなくてはいけなかったのです。睡眠時間の重要性は分かっていたつもりだったので、練習日誌には、睡眠時間も記録し、1週間の平均が5時間を切らないように気をつけていました。アスリートは7~8時間、それに必要に応じて昼寝をすることが理想とされています。平均5時間睡眠とは、信じられないですが、それでも成績は伸びていったのです。
ところが、競技生活を何年も重ねて行くと、次第に寝つきが悪くなり、夜中に何度も目が覚めるようになってしまいました。睡眠時間が不足していること、そして過度の仕事のストレスで交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまったのです。気がついたら病院のベットで寝かされていました。治療法は寝ること。薬を使って延々と寝かされました。当時は気がつかなかったのですが、睡眠が足りない分は、「大丈夫」なのではなく、体に睡眠負債を抱えていくということだったのです。
しばらく寝続ける入院を、そして静養を経て、睡眠負債を返し終えて、トレーニングに復帰した私は、全く知らなかったような自分に出会うことができました。体全体に力がみなぎって、これが本当に疲れが抜けている感覚なのかと驚きました。当時は睡眠不足だったにも関わらず、それが当たり前になっていて、体が完全に回復できていなかったのですね。睡眠時間の大切さを痛感した私は、固執していた仕事を人に振り、練習時間、睡眠時間が確保できる程度の仕事量に抑えました。仕事も順調に伸びていただけに、躊躇がありましたが、一旦、手を離してからは、競技への覚悟が決まりました。退院して半年後の大会で、過去最高の成績を収めることができたのは、睡眠時間を確保し、睡眠負債から抜け出したからでしょう。
生活をシンプルに
さて、睡眠時間の重要性が少しは伝わったでしょうか。強くなるためには、睡眠時間も確保しないといけないということです。決してトレーニング時間を捻出するために、睡眠時間を削ってはいけません。強くなっていくと、徐々にトレーニング時間も増えていきます。そして、その分の回復時間も必要になっていきます。仕事や、家族の時間、睡眠時間のバランスコントロールこそ、強くなるために必要なスキルです。
強いトライアスリートが、得てして「変人」と言われてしまうのは、強くなるために自分の為の時間を生きているからです。人からは付き合いが悪いと言われてしまうかもしれないし、テレビドラマの話題についてこれないかもしれません。しかし、強くなるということはそういうことなのです。仕事を効率よく切り上げ、トレーニングに関する時間を確保することなのです。どんどん生活がシンプルになっていきますよ!
無駄な時間を省いていく過程で、職場や家族に理解してもらえるように努力することも必要でしょう。また、徐々にシンプルになっていく生活に孤独を感じることもあるでしょう。私がそうでした。でも、好きでやっているんでしょう?目標をどうしても達成したいんでしょう?だったら、迷うことはありません。人の目を気にすることないのです。
まとめ
人生においては、仕事が大事な時期も、家族との時間をたくさん割く時期も必要でしょう。話が、あちこち脱線しましたが、そうした時期に、トライアスロンも強くなりたい!といっても心身を壊してしまいます。トライアスロンは逃げません。人生の中で、今何を第一優先にすべきかを考えて取り組んでくださいね。
by KD