トライアスリートこそ苦手なケイデンス変化を取り入れよう
指導している女性トライアスリートの面白いデータがあったので、皆さんにも紹介します。彼女はアイアンマンハワイにも出場するレベルの選手ですが、キャリアはまだ浅く、一人でトレーニングを積んできました。指導を受けた経験はほとんどないと言っていいでしょう。バイクパートを得意としている選手で、当然バイクには自信があるようでした。実際に、アイアンマン70.3では、90kmを2時間30分を切るレベルで男性選手を蹴散らしていました。
ところが、私と行ったグループライドでは、いつの間にか千切れてしまいました。もちろん、ある程度レベルの高い男性選手とのセッションだったのですが、ローテーションに入らなければ、十分に付いてこれるレベルのはずです。調子が悪かったのかな、と思いましたが、指導をスタートさせて行くうちに、面白い特性がわかりました。
「スピードの変化に弱い」のです。
彼女のように、集団走行での練習会や、コーナーが多く周回数が多いショートのトライアスロンが苦手だ、という方も多いのではないでしょうか?これは、彼女が単独走行でフラットな河川敷で走ったときのデータと、ローラー台にて60秒に1回、10秒間のペースアップを入れたときのデータです。

河川敷にて折り返し以外に変化のないコースでの60分

ローラー台でのBurstを60秒毎に入れて変化を持たせた60分
データの通り単独走行では心拍数も低くパワーも高く出ていますが、スピード変化を入れたときには心拍数が非常に高くなり、パワーも出ていません。
原因としては、ペダリングスキルにあります。ロングの単独走行においては70-80回転で十分ですが、スピード変化に対応するにはギアを重くしてスピードを上げるのではなく、瞬時に回転数を上げてスピードアップする必要があります。そのときにスムーズなケイデンス変化ができないと心拍数の上昇やパワー低下、そして何よりストレスを感じてしまいます。彼女のように一人で練習をしていると、ケイデンス変化に対応するスキルはなかなか向上しません。
ケイデンス変化の重要性
ロングしか出場しないから、そんなスキルは要らない、そう思う方も多いでしょう。しかし、ワンランク上にレベルアップするなら、このスキルの獲得は絶対です。ロングにおいても、多少のスピード変化があります。例えば、前の選手を追い抜く際には、ゆっくりとマイペースで抜いていくとドラフティングを取られてしまいますから、スピードを上げてさっと抜き去りますよね。また、減速コーナーが連続するような場合には加速スキルがないとライバルに離されてしまいます。そして、何より集団走行によるレベルの高い練習会に参加できないのは、「成長できる機会の損失」になります。集団走行での練習ではドラフティングができるため、自分よりレベルの高い選手との練習ができます。ハイスピードでのバイク操作は、練習中の事故防止にも、レース単独走行においても効率的な走行を可能にします。アイアンマンディスタンスにおいても、ケイデンス変化ができないのと、ケイデンス変化ができるけどしない、のでは大きな違いです。
対策メニュー
一人で練習している選手はケイデンス変化のスキルを向上させるために、どのような練習したらいいのでしょうか?まずは、ローラー台にて以下のようにベース練習に取り入れることをお勧めします。
<高回転練習>
メイン練習前のウォーミングアップに最適です。お尻が跳ねないように注意して行います。最初は120回転ではできないかもしれません。はじめは徐々に120回転に到達できるように回転数のビルドアップがいいでしょう。120回転以上でスムーズにペダリングできるように、できるようになったら、できるだけ長い時間回し続けられるように。
メニュー例)
・120回転 20分ストレート(強度指定なし)
・105-110-115-120回転 5分ずつ合計20分(強度指定なし)
<ケイデンス変化走>
ベース練習の時にケイデンスを変化させます。10分ずつ回転数を上げていくところからはじめ、慣れてきたら、5分毎に、3分毎に、1分毎にと変化を増やしていきます。ケイデンスを変化させた後にすぐにスピード(ワット)を安定させるようにするのがポイント。さらに慣れてきたら、回転数の上げ下げの幅を増やして行きます。強度は耐久走レベルから上級者はtempoレベルで行うとより実戦的です。
40分のメニュー例)
・40分走A 5分ごとに回転数ビルドアップ
回転数:85-90-95-100-105-110-115-120
・40分走B 1分毎に回転数ビルドアップ&ダウン
回転数: (75-80-85-90-95-100-105-110-115-120-115-110-105-100-95-90-85-80-75-70)×2ラウンド
・40分走C 2分ごとに回転数を大きく変化
回転数:(70-100-75-105-80-110-85-115-90-120)×2ラウンド
<Burst練習>
特にローラー台での耐久走やtempo走練習の時に取り入れるといいでしょう。1分に一度、10秒間だけペース(スピード&ワット)をあげます。ハードというほどではなく、前走者を追い抜くようなイメージで、私たちはこれをバーストと呼んでいます。一定ペースでのベース練習においても、このバーストを取り入れるとより実戦に近くなりますよ!ロングメインの選手はギアを軽くしてケイデンスを上げてスピードを上げましょう。逆に、高ケイデンスに慣れている選手の場合にはギアを重くしてスピードを上げても効果的です。ドラフティングレースに慣れているショートの選手には、トルクをかけることが苦手な選手も多いので、お勧め。伸ばしたい能力に応じて変化の仕方を変えるといいでしょう。
メニュー例)
・40分耐久走(tempo走) w/Burst
(50秒耐久走(tempo走)・10秒ケイデンスを軽くして(もしくはギアを重くして)ペースアップ)繰り返し
まとめ
ロングの練習ばかりに囚われていると、基本が疎かになりがち。ローディや、ショートの選手のとの練習はマンネリを防ぎますし、バイク技術の向上に大きく寄与します。スピード変化が辛いから、苦手だからといって毛嫌いせずに。ワンランクアップを目指すなら、苦手なものにこそ、ブレイクスルーのヒントがありますよ。ぜひ、トライしてみてください。
by KD